あらがうお爺ちゃん

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スーパーで買い物をした。帰りの道。歩道は二人分くらい。それも隣の住宅地からは植物が攻め込んできていて、ほぼ一人進めるくらいの歩道。僕は、レジ袋を片手に進む。向かいに自動の車椅子。右手で操作しながらその一人分しかない歩道を進むお爺ちゃん。邪魔だなあ。歩道と車道に少しの段差があるから僕は歩道から降り車道の端を進む。少し腹立たしい気持ちを抑えながら、どんな奴だと眼光を突きつける。あと5mくらい。ハットを被り、おしゃれな格好。右手で操縦しながら向かってくる。表情までは伺えない。あと1mくらい。白い髭が無造作に生えていてそれが似合う。渋い顔。顔いかついな。すれ違う直前まで睨め付ける。俺は悪くない。悪いのは歩道をそんな自動車みたいなので進むお爺ちゃんの方だ。お爺ちゃんも僕の眼光に引けを取らないくらい睨め付ける。両者無言。すれ違う直前、絶対に目を逸らさないと心に誓ったにもかかわらず、口元に逸れてしまった。「・・・加えタバコ。」すれ違った後、思わず口にしてしまった。

おそらく昔は無茶なことをやっていたのだろう。夜な夜な飲み歩き、仕事は力仕事。綺麗な妻と子供を支えるため、必死に働いてようやく定年。若い頃の無茶が募ったのか近頃体がうまく動かない。成人になった子供からもらった自動の車椅子。最初はダサそうで嫌がっていたが、一度使うとその便利さに外出の回数も増えてきた。友人は少ない。数少ない友人の家で無駄口を叩いて帰るだけだが、それが毎日の楽しみ。車椅子に乗るからといってどうでもいい格好はしたくない。人様に会うときはそれなりの身なりをしなくては。今日もいつもの友人の家に向かう。今日テレビでやっていた政治評論家の話が気に食わなかったので、そのことを早く友人に熱弁したい。いつものハットを被り、車椅子で向かう。慣れたものだ。向かう途中、この暑苦しい天気と先ほどテレビで見た時の熱が冷めず、ムカついてタバコを咥える。妻には、健康に気をつかえと言われるのはわかっているから家ではなかなかタバコは吸えない。火をつける。車椅子を右手で操作し、左手でタバコを吸う。友人宅に向かう途中で向こうから若い男性が歩いてきた。いかにもあの政治評論家が言っていた典型的な今の若者。気に食わない。先ほどのテレビの熱はまだ治らない。こういう若者がいるから困るんだよな。そんなこと思いながら、目を向ける。すると、若者もこちらに目を向けていて目があった。しかし、ヘコ足らない。もしものために左手を自由にしておく。すれ違う直前までにらめ付けてやった。クソガキが。そして左手でタバコの灰を捨てる。

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