夏にカレー、おじさんにぎっくり腰

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梅雨が終わり、暑さも本格的になり始めたこの頃、僕は決まってカレーが食べたくなる。梅雨明けのニュースが流れるテレビを見ながら無意識にケータイでカレー店を調べていた。話は逸れるが、最近外国人の営業するカレー屋が多くないですか?あれなんでなんだろうって考えたんですけど、絶対裏で日本人の黒幕がいると思うんですけど、そう思いませんか?店内の雰囲気とか似てるし、え?こんなとこにもあんの?ってニッチな場所で経営してる店とかあるんで。極め付けにみんな日本語上手いことな。誰か教育してるだろってくらい礼儀良いし。まあそんなこんなで店を決めた。雑居ビルの2階の奥にあるこじんまりとしたカレー屋さん。僕の決め手はスパイス感なので、口コミサイトからそれについての情報を確認する。よしよしなるほどな。そして次に調べるのが店内の写真。僕はアラサー、独身、彼女なし。そのため、家族層多めの場所に行くと浮いてしまう。写真を見ると、テーブルが二つにカウンターと一人で行くにもちょうどいい大きさだった。よしよしよし。ここに決めた。

当日。天気は快晴。コンディションも最高だ。目的地に向かう。裏路地に入り、雑居ビルの看板を見上げる。あ、ここだ。薄暗い。ほんとにやってんのかな。ケータイで調べる。やっぱりここだ。営業時間だ。行くか。薄暗い雑居ビルの階段を登ると、奥に看板が見えた。あそこだ。なんか知る人ぞ知る感出てるぞ。ワクワクしてきた。とりあえず店の前にアルコールが置いてあったので、消毒をする。手に馴染ませながら扉のガラス越しに店内を確認する。奥のテーブル席にひとり先客がいた。あ、ちゃんと空いてる。人少ないし入りやすいな。扉を開き、店内にカランカランと乾いた鐘の音がなる。「いらっしゃいませ。」いや、お前客じゃなかったんかい。テーブル席のおじさんが笑顔でこちらを向いている。座ったまま「どうぞどうぞ、どこでもいいんで座ってください。」とりあえずカウンターの中央に座ることにした。カバンを下ろし、席に座って一息。ふと、おじさんを見ると、小声で「よし」といいながら右手を背中に左手を太ももに当て、歯を食いしばりながら立ち上がった。むちゃくちゃ苦しそうだ。「少々お待ちくださいね。」と言いながら、カウンターの正面にある調理場に向かった。今から調理の準備に取り掛かるものだと思った僕は、「牛すじカレーお願いします。」といったら、おじさんが調理場の上の棚をゴソゴソしながら「牛すじカレーね。少々お待ちください。」といいながら、店のBGMと電気がついた。いや、どっちでもいいのよ。客入ってきてから音楽かける店なんて初めてだわ。あと、電気ついてなかったんかい。薄暗いからわからんかったわ。ほんで電気ついても店の明るさそんな変化なかったからつける必要そんななかったぞ。「少々お待ちください」と言いながら僕の席の後ろを通る。え、どこ行くん?って目で見てたら、店の扉を開放してストッパーを挟みながら「すみませんね。今日、ぎっくり腰になって。お時間かかりますが、ご了承ください。」え?店空いてなかったんかな?もしかして僕が来たからわざわざ店開けた?ぎっくり腰なのに。鶏のモノマネでもしてるみたいな体勢でまた僕の後ろを通り抜けていく。調理場に戻り、「牛すじカレーですよね。少々お待ちくださいね。すみませんね。」僕も申し訳なくなってきて「全然大丈夫なんで。気をつけてください。」といった。カウンター越しにおじさんの調理過程を観察する。「くぅ〜」とか「あぁー」とかおじさんの喘ぎ声が聞こえてくる。たまに「しまった。」とか「そっか」、「くそ〜」とか心の声が漏れ出してて心配になる。大丈夫かなって思うと同時にだんだん面白くなってきた。こんなに目の前でおじさんが悶え苦しみながら自分のためにカレーを作ってもらうことなんて初めてだ。喘ぎ声を聞くたびに笑いが止まらなくなり、それをバレないように下を向いてた。「サラダです。」映画カイジのEゲームで藤原竜也が奴隷のカードを出すときぐらい緊張な眼差しで手を震わせながら、皿を渡してきた。笑いを堪えながら受け取る。サラダを食べてる間もおじさんの喘ぎ声がずっと聞こえてきて、笑いが止まらない。カレーが出来上がったようだ。また、同様の要領で受け取る。美味しそう。サラサラとした感じで僕の好きなオクラが入っていた。美味しい。すごく美味しかった。語彙力がなくて申し訳ないが、ものの5、6分で食べ終わった。マスクにカレーがつかないように口元を拭いて、水を飲みがらそろそろ出るかと思っていたら、「カレーの辛さどうだったですか?辛くなかったですか?」って聞いてきた。「ちょうど良かったです」と答えるが、僕としてはカレーの辛さの心配よりおじさんの方が心配だった。

多分だけど、僕は近々またこの店に来るだろう。僕は学生の頃よく言われていた言葉を思い出した。「人はしんどい時に本性が出る。自分が苦しい時に他人に目を向けれる人になりなさい。」と。僕は、おじさんの本性を見た。どんなに苦しくても店の普段通りの営業スタイルを貫くためわざわざBGMと電気をつけたこと。悶え苦しみながらもちゃんと調理をして普段通りのクオリティの味を出してくれたこと。僕に対して何度も「少々お待ちくださいね」といってくれたこと。最後にからさの心配までしてくれたこと。薄暗い雑居ビルから出て、真っ向から日差しを浴びた時、なんだか清々しい気持ちになった。今日は、なんかいい日になりそう。

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